

抗生剤の効かない病原体が見つかったり、医療器具を長期にわたって患者の体内に留置する例が増えたこともあって、感染対策は医療現場の重要な課題となっている。インフェクションコントロールドクター(ICD=感染対策の専門医)の資格を持つ光生病院(岡山市北区厚生町)の吉本静雄副院長に「感染制御」について聞いた。
―感染制御とは何ですか。
比較的新しい医療の一分野です。医療行為に伴って発生する感染を、科学的な根拠に基づく対策で予防し、不幸にして感染が発生した場合には速やかに治癒に導くことが主な業務です。
感染制御の対象は、数年前までは急性期病院(発症後間もない患者を集中的に治療する病院)での感染が主体で院内感染と呼ばれてきました。現在では施設を問わず医療に付随して発生する感染すべてが対象となり、医療関連感染と言います。
最近の医療の多様化で、急性期病院に限らず、長期療養型医療施設、介護福祉施設、在宅などでも同じように医療行為に伴う感染が発生し、急性期病院と他の施設との間に患者さんの頻繁な行き来があることなどから、一つの医療機関だけの対策では十分な感染制御は困難だからです。
予防しようとしても感染は必ず起こってきます。発生状況を正確に把握し、早期のアウトブレーク(集団発生)を察知することが重要です。そのためにはサーベイランス(発生状況の調査、分析、監視)を実施し、常に感染状況を監視しなければなりません。
―そうした取り組みを行う背景は。
日本では1980年代あたりから、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)という多剤耐性菌(多くの抗生剤に耐性を示す菌)が急速に増え、問題化しました。MRSAは当時のほとんどすべての抗生剤に耐性を持ち、感染して感染症を発症すると治すことが極めて困難なので、感染しないための対策を研究する感染制御学が誕生しました。
また、近年の医療の進歩は目覚ましく、それまで難しかった病気の治療が可能になり、多くの患者さんを救えるようになりました。しかしその半面、高度の医療は易感染性(いかんせんせい)(感染を起こしやすい)という新たなリスクを患者さんに負担させるようになりました。
治療により著しく免疫状態が低下したり、治療のために体内に感染のリスクとなるカテーテルなどの医療器具を長期にわたって留置することも器具の改良で可能になっています。その結果、医療行為に伴う感染のリスクは医療の進歩とともにかえって増加し、感染すると、より重篤になる可能性が高くなってきています。
原疾患(もともとの病気)の治療はもちろん重要ですが、治療しても後で感染症を起こし取り返しのつかない状態になっては、一体何のための治療かということになってしまいます。
―光生病院の取り組みを。
感染制御を行うには、私のような医師が一人だけいればよいというわけではありません。医師、看護師、それから薬剤師、臨床検査技師、管理栄養士、もちろん事務部門の人も、というふうに多職種のチームをつくって行動します。インフェクションコントロールチーム(ICT)と呼んでいます。ICTは、院内での上位組織の感染対策委員会から諮問や提案を受けて活動し、院内での感染管理の実動部隊の役割を担っています。
当院では現在、特に尿路留置カテーテルに関連した感染症対策に取り組んでいます。全国的に言って院内感染の中で一番多いのは尿路の感染症で、そのうち90%以上は尿路留置カテーテルを入れている患者さんに発症しているのです。
ある患者さんの尿を取り扱うときは、必ず手を洗い、手袋をし、エプロンを着け、取り扱った後は必ず手袋とエプロンを外し、手洗いをする。別の患者さんの所へ行くときは、手を洗って新しい手袋をし、新しいエプロンを着ける。そうした一つ一つの手技(業務)が、伝播(でんぱ)をシャットアウトする鉄則です。
―やはり手洗いが大切なのですか。
感染制御の基本対策に、標準予防策や感染経路別対策というものがあります。これらの対策の基本となるものが手洗い(手指衛生)です。医療従事者の体で患者さんに接触することが最も多い部位が手であるため、手の対策を完全に講じておけば、大部分の院内感染は防御できるとさえ言われています。
これまでは消毒剤を使った流水での1分間の手洗いが推奨されてきましたが、最近はボトル入りのアルコールの入った消毒剤を使い、擦式(さっしき)と言って、手をこすり合わせる方法が行われるようになってきています。流水による手洗いに比べて消毒効果が良く、手荒れが少なく、ボトルをどこにでも設置できることが理由です。
―ご自身が感染制御に携わりだしたのはいつですか。
20年くらい前です。国立療養所南岡山病院(現・国立病院機構南岡山医療センター)にいたとき、MRSAの問題を契機に始めました。感染制御について調べているさなか、看護師からある言葉を聞きました。
「病院が備えているべき第一の必要条件は、病院は病人に害を与えないこと」―。
ナイチンゲールの「病院覚え書き」に出てきます。ナイチンゲールは建築家でもあったらしく、寝たきりの患者さんのために日当たりのよい窓をつくってあげましょうとか、病院建築の心得を書いているのですが、感染制御にも通じる、いい言葉だと思います。
感染対策のあらまし
感染制御を行うための標準予防策は、伝播の恐れがある病原体が、汗を除くすべての体液、分泌・排泄(はいせつ)物に含まれているかもしれないという考え方に基づく。感染の疑いがあるとか、感染が確定していることに関係なく、すべての患者に対して行う。手洗いのほか、手袋、ガウン、マスク、ゴーグルなどの装着、安全な注射手技、咳(せき)やくしゃみをするときのエチケットの啓発などが具体例として挙げられる。
感染経路は、病原体によって異なる。接触感染(単純ヘルペスウイルス、黄色ブドウ球菌など)で伝播したり、飛沫(ひまつ)感染(インフルエンザウイルス、百日咳菌など)や空気感染(結核菌など)で伝播するものもある。また新型肺炎(SARS)のように複数の感染経路で伝播する病原体もある。感染経路別対策は、病原体のこうした性質を踏まえて、標準予防策に加えて行う。
予防策の基本は手洗いだ。パームスタンプ法という、微生物の検査法がある。細菌・真菌検出用の寒天培地に手のひら側を当てた後、培養室で数日間培養すると、手に付着していた微生物が培地の上で増え、斑状のかたまり(コロニー)として検出される。手洗い前の検査では多くのコロニーが見られ、適切な手洗いをした後ではコロニーの数が減少している=写真参照。医療行為をする際の手洗いの大切さが分かる。
院内感染のサーベイランスは全国で行われ、薬剤耐性菌や手術部位に関するものなど各種ある。MRSAのサーベイランスを例に取ると、入院患者100人のうち0・6人から0・8人が入院中にMRSAが原因で感染症を発症しているというデータがある。
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感染症 県南東部 健康、予防、予後 |
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光生病院 吉本静雄 |
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第20回 乳がん 川崎医科大付属病院乳腺甲状腺外科・園尾博司部長
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第10回 皮膚がん 川崎病院皮膚科 荒川謙三部長(院長補佐)
第9回 未破裂脳動脈瘤 岡山旭東病院 吉岡純二診療部長
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第6回 食道がん 岡山大病院消化管外科 猶本良夫科長
第5回 肺がん 岡山赤十字病院 渡辺洋一副院長
第4回 大動脈解離、大動脈瘤 国立病院機構岡山医療センター心臓血管外科 岡田正比呂医長
第3回 胃がん 倉敷中央病院 小笠原敬三院長
第2回 肝がん(外科手術) 岡山済生会総合病院 三村哲重副院長
第1回 糖尿病 川崎医科大付属病院 加来浩平副院長
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理事長
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救急と在宅医療支援に力 |
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診察室から
副院長
吉本静雄
医療機関での感染未然に防げ |
http://www.kousei-hp.or.jp

岡山市北区厚生町3-8-35

086-222-6806

JR岡山駅から車で約10分 JR岡山駅から倉敷方面行きバスで「厚生町」下車、徒歩3分






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