第15回 感染制御 光生病院 吉本静雄副院長
医療施設での発生予防 手洗いが対策の基本


Get the Flash Player to see this player.
光生病院 吉本静雄副院長

 よしもと・しずお 1976年岡山大医学部卒。同年岡山大第二内科入局。高知医科大第三内科、国立療養所南岡山病院、児島市民病院を経て2008年から光生病院副院長。専門は血液疾患(日本血液学会専門医・指導医)、感染症(ICD)。
 よしもと・しずお 1976年岡山大医学部卒。同年岡山大第二内科入局。高知医科大第三内科、国立療養所南岡山病院、児島市民病院を経て2008年から光生病院副院長。専門は血液疾患(日本血液学会専門医・指導医)、感染症(ICD)。
パームスタンプ法による、手に付着した微生物の検査。手洗い後のコロニーは円内にしか見られない(吉本副院長提供)
パームスタンプ法による、手に付着した微生物の検査。手洗い後のコロニーは円内にしか見られない(吉本副院長提供)

 抗生剤の効かない病原体が見つかったり、医療器具を長期にわたって患者の体内に留置する例が増えたこともあって、感染対策は医療現場の重要な課題となっている。インフェクションコントロールドクター(ICD=感染対策の専門医)の資格を持つ光生病院(岡山市北区厚生町)の吉本静雄副院長に「感染制御」について聞いた。

 ―感染制御とは何ですか。

 比較的新しい医療の一分野です。医療行為に伴って発生する感染を、科学的な根拠に基づく対策で予防し、不幸にして感染が発生した場合には速やかに治癒に導くことが主な業務です。

 感染制御の対象は、数年前までは急性期病院(発症後間もない患者を集中的に治療する病院)での感染が主体で院内感染と呼ばれてきました。現在では施設を問わず医療に付随して発生する感染すべてが対象となり、医療関連感染と言います。

 最近の医療の多様化で、急性期病院に限らず、長期療養型医療施設、介護福祉施設、在宅などでも同じように医療行為に伴う感染が発生し、急性期病院と他の施設との間に患者さんの頻繁な行き来があることなどから、一つの医療機関だけの対策では十分な感染制御は困難だからです。

 予防しようとしても感染は必ず起こってきます。発生状況を正確に把握し、早期のアウトブレーク(集団発生)を察知することが重要です。そのためにはサーベイランス(発生状況の調査、分析、監視)を実施し、常に感染状況を監視しなければなりません。

 ―そうした取り組みを行う背景は。

 日本では1980年代あたりから、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)という多剤耐性菌(多くの抗生剤に耐性を示す菌)が急速に増え、問題化しました。MRSAは当時のほとんどすべての抗生剤に耐性を持ち、感染して感染症を発症すると治すことが極めて困難なので、感染しないための対策を研究する感染制御学が誕生しました。

 また、近年の医療の進歩は目覚ましく、それまで難しかった病気の治療が可能になり、多くの患者さんを救えるようになりました。しかしその半面、高度の医療は易感染性(いかんせんせい)(感染を起こしやすい)という新たなリスクを患者さんに負担させるようになりました。

 治療により著しく免疫状態が低下したり、治療のために体内に感染のリスクとなるカテーテルなどの医療器具を長期にわたって留置することも器具の改良で可能になっています。その結果、医療行為に伴う感染のリスクは医療の進歩とともにかえって増加し、感染すると、より重篤になる可能性が高くなってきています。

 原疾患(もともとの病気)の治療はもちろん重要ですが、治療しても後で感染症を起こし取り返しのつかない状態になっては、一体何のための治療かということになってしまいます。

 ―光生病院の取り組みを。

 感染制御を行うには、私のような医師が一人だけいればよいというわけではありません。医師、看護師、それから薬剤師、臨床検査技師、管理栄養士、もちろん事務部門の人も、というふうに多職種のチームをつくって行動します。インフェクションコントロールチーム(ICT)と呼んでいます。ICTは、院内での上位組織の感染対策委員会から諮問や提案を受けて活動し、院内での感染管理の実動部隊の役割を担っています。

 当院では現在、特に尿路留置カテーテルに関連した感染症対策に取り組んでいます。全国的に言って院内感染の中で一番多いのは尿路の感染症で、そのうち90%以上は尿路留置カテーテルを入れている患者さんに発症しているのです。

 ある患者さんの尿を取り扱うときは、必ず手を洗い、手袋をし、エプロンを着け、取り扱った後は必ず手袋とエプロンを外し、手洗いをする。別の患者さんの所へ行くときは、手を洗って新しい手袋をし、新しいエプロンを着ける。そうした一つ一つの手技(業務)が、伝播(でんぱ)をシャットアウトする鉄則です。

 ―やはり手洗いが大切なのですか。

 感染制御の基本対策に、標準予防策や感染経路別対策というものがあります。これらの対策の基本となるものが手洗い(手指衛生)です。医療従事者の体で患者さんに接触することが最も多い部位が手であるため、手の対策を完全に講じておけば、大部分の院内感染は防御できるとさえ言われています。

 これまでは消毒剤を使った流水での1分間の手洗いが推奨されてきましたが、最近はボトル入りのアルコールの入った消毒剤を使い、擦式(さっしき)と言って、手をこすり合わせる方法が行われるようになってきています。流水による手洗いに比べて消毒効果が良く、手荒れが少なく、ボトルをどこにでも設置できることが理由です。

 ―ご自身が感染制御に携わりだしたのはいつですか。

 20年くらい前です。国立療養所南岡山病院(現・国立病院機構南岡山医療センター)にいたとき、MRSAの問題を契機に始めました。感染制御について調べているさなか、看護師からある言葉を聞きました。

 「病院が備えているべき第一の必要条件は、病院は病人に害を与えないこと」―。

 ナイチンゲールの「病院覚え書き」に出てきます。ナイチンゲールは建築家でもあったらしく、寝たきりの患者さんのために日当たりのよい窓をつくってあげましょうとか、病院建築の心得を書いているのですが、感染制御にも通じる、いい言葉だと思います。

 感染対策のあらまし

 感染制御を行うための標準予防策は、伝播の恐れがある病原体が、汗を除くすべての体液、分泌・排泄(はいせつ)物に含まれているかもしれないという考え方に基づく。感染の疑いがあるとか、感染が確定していることに関係なく、すべての患者に対して行う。手洗いのほか、手袋、ガウン、マスク、ゴーグルなどの装着、安全な注射手技、咳(せき)やくしゃみをするときのエチケットの啓発などが具体例として挙げられる。

 感染経路は、病原体によって異なる。接触感染(単純ヘルペスウイルス、黄色ブドウ球菌など)で伝播したり、飛沫(ひまつ)感染(インフルエンザウイルス、百日咳菌など)や空気感染(結核菌など)で伝播するものもある。また新型肺炎(SARS)のように複数の感染経路で伝播する病原体もある。感染経路別対策は、病原体のこうした性質を踏まえて、標準予防策に加えて行う。

 予防策の基本は手洗いだ。パームスタンプ法という、微生物の検査法がある。細菌・真菌検出用の寒天培地に手のひら側を当てた後、培養室で数日間培養すると、手に付着していた微生物が培地の上で増え、斑状のかたまり(コロニー)として検出される。手洗い前の検査では多くのコロニーが見られ、適切な手洗いをした後ではコロニーの数が減少している=写真参照。医療行為をする際の手洗いの大切さが分かる。

 院内感染のサーベイランスは全国で行われ、薬剤耐性菌や手術部位に関するものなど各種ある。MRSAのサーベイランスを例に取ると、入院患者100人のうち0・6人から0・8人が入院中にMRSAが原因で感染症を発症しているというデータがある。

(2010/5/3)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

感染症    県南東部    健康、予防、予後    
光生病院    吉本静雄    



第23回 乳がん おおもと病院 山本泰久理事長・名誉院長
 早期発見へデジタル画 年齢、生活考え治療計画
(2010/7/19)



第22回 悪性リンパ腫 岡山労災病院 矢野朋文・第2内科部長
 予後見通し薬剤選択 副作用対策も重要な柱
(2010/7/5)



第21回 緩和ケア 岡山済生会総合病院 石原辰彦主任医長
 適切な薬で痛み除去 精神的な不安にも対応
(2010/6/28)



第20回 乳がん 川崎医科大付属病院乳腺甲状腺外科・園尾博司部長
 「毎年検診」で発見早く 乳房温存術が手術の6割
(2010/6/14)



第19回 うつ病 万成病院 小林建太郎理事長・院長
 薬と休養、治療の基本 人生見つめ直す転機に
(2010/5/31)



第18回 統合失調症 慈圭病院 武田俊彦副院長
 前駆段階から積極治療 リハビリで生活圏拡大
(2010/5/24)



第17回 重症心身障害児・者の医療 旭川荘療育センター児童院 片山雅博院長代理
 根本目的はQOL向上 合併症、早期発見し対処
(2010/5/17)



第16回 尿路結石 岡山中央病院 入江伸医師
 衝撃波破砕が9割超 発熱は重症の可能性
(2010/5/10)



第15回 感染制御 光生病院 吉本静雄副院長
 医療施設での発生予防 手洗いが対策の基本
(2010/5/3)



第14回 手の外科 笠岡第一病院 橋詰博行院長
 日帰り手術で機能回復 ロコモ予防へリハビリ
(2010/4/26)



第13回 小児整形外科の三大疾患 旭川荘療育センター療育園 小田浤院長
 先天股脱治療 股関節症防ぐ 筋性斜頸9割 自然治癒
(2010/4/19)



第12回 大腸がん おおもと病院 磯崎博司院長
 粘膜内なら内視鏡手術 技術進歩で肛門機能温存
(2010/4/5)



第11回 膀胱がん 松田病院 森岡政明診療部長
 再発防ぐ術後ケア大切 定期的に内視鏡検査を
(2010/3/29)



第10回 皮膚がん 川崎病院皮膚科 荒川謙三部長(院長補佐)
 診断から治療まで一貫 苦痛抑え整容面も配慮
(2010/3/22)



第9回 未破裂脳動脈瘤 岡山旭東病院 吉岡純二診療部長
 くも膜下出血の恐れ 治療選択、患者が判断
(2010/3/15)



第8回 心筋梗塞 心臓病センター榊原病院 山本桂三副院長
 即搬送で死亡率激減 カテーテル治療や手術
(2010/3/8)



第7回 人工関節(MIS) 岡山労災病院人工関節センター 難波良文センター長 
 小さく切開 筋肉も温存 ナビ導入で正確さ向上
(2010/3/1)



第6回 食道がん 岡山大病院消化管外科 猶本良夫科長
 手術と化学療法で効果 胃の機能温存にも配慮
(2010/2/22)



第5回 肺がん 岡山赤十字病院 渡辺洋一副院長
 優れた薬開発され光明 禁煙が最も有効な予防
(2010/2/15)



第4回 大動脈解離、大動脈瘤 国立病院機構岡山医療センター心臓血管外科 岡田正比呂医長
 「A型」なら緊急手術 瘤は治療法に一長一短
(2010/2/1)



第3回 胃がん 倉敷中央病院 小笠原敬三院長
 リスクも考え内視鏡を チーム医療充実 不可欠
(2010/1/25)



第2回 肝がん(外科手術) 岡山済生会総合病院 三村哲重副院長
 予備力に応じ治療選択 再発早期なら再手術も
(2010/1/18)



第1回 糖尿病 川崎医科大付属病院 加来浩平副院長
 基準変更 見落とし減へ インクレチン守る新薬も
(2010/1/11)








理事長室から
理事長    佐能量雄
救急と在宅医療支援に力
診察室から
副院長    吉本静雄
医療機関での感染未然に防げ
基本情報
http://www.kousei-hp.or.jp



岡山市北区厚生町3-8-35



086-222-6806



JR岡山駅から車で約10分 JR岡山駅から倉敷方面行きバスで「厚生町」下車、徒歩3分



地図はこちら
昭和27年、現在地に光生病院を創立。昭和38年に救急病院の指定を受け、昭和41年、医療法人社団光生病院に改組。平成8年には鉄筋8階建の現施設が竣工。最良の医療技術と福祉サービスを提供できる病院に生まれ変わった。平成22年4月、社会医療法人に認定。

24時間急患受け入れに対応。一般病棟(198床)のほか介護老人保健施設(50床)や通所リハビリ施設などを併設。地域に根ざした最良の医療・福祉・保健をトータルでサポートしている。

「慈愛と奉仕」の理念の下、最良の医療と福祉を提供し、地域住民に愛され信頼される病院を目指す。

(財)日本医療機能評価機構認定病院

特別養護老人ホーム「宇甘川荘」「おもいやり」「レファシード直島」
有料老人ホーム「アヴィラージュ大安寺」「アヴィラージュ百間川」「饗(あえ)のまち新屋敷」
診療科目
内科、外科、整形外科、脳神経外科、救急科、形成外科、心臓血管外科、循環器内科、泌尿器科、心療内科、皮膚科
診療時間
900-1200
1300-1900
※診療時間は受診の前に必ず病院に確認してください。初診と再診で異なる場合があります。
特記事項
院内サービス