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| 移植に備え臍帯血を注射器に移す上田・血液内科主任部長 |
解凍されたばかりの臍帯(さいたい)血が、注射器から管を伝わり患者の体内に入っていく。倉敷中央病院三階にある血液内科病棟の準無菌室。二月、通算百九十二件目となる他人の提供者からの同種造血幹細胞移植が行われていた。
「この臍帯血はO型ですよ」。注射器を手に内山達樹医師(28)が男性患者に語る。患者の血液型は移植前のA型からO型に変わるという。内山医師と血液型談議を交わす患者。安堵(あんど)感が漂う。二十CCの臍帯血は二十分で体内に納まった。
患者は「血液がん」の一つ、骨髄異形成症候群。赤血球や白血球、血小板の元になる造血幹細胞ががん化する。移植以外に根治は望めない。五十代以上に多く、この男性患者も五十六歳だった。
「以前なら年齢的に移植できるか微妙だった」と血液内科の上田恭典主任部長(52)。こうした高齢や合併症のある白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫などの患者に移植の可能性を広げたのが「ミニ移植」。移植の前処置として行う化学・放射線療法を従来より軽くした手法だ。
血液がんは骨の中心にある骨髄で造血幹細胞が赤血球、白血球、血小板に成長する過程で起き、がん化する細胞により病気が異なる。白血病は白血球の病気で、急性・慢性や骨髄性・リンパ性に分けられる。患者が多い悪性リンパ腫はリンパ球ががん化する。
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| 準無菌室で行われた臍帯血移植。昨秋、改装したばかりの病室は明るく、長期間過ごす移植患者に好評だ |
治療は抗がん剤による化学療法が基本だが、予後が悪いとみられたり、再発の場合は骨髄液、臍帯血、末梢(まっしょう)血を用いた造血幹細胞移植が行われる。がん細胞を死滅させた後、健康な人の幹細胞を移植するが、がん細胞の死滅には大量の抗がん剤と放射線を使い、患者のダメージが大きい。このため、五、六十代以上や既に臓器障害のある患者は移植が難しかった。
ところが、がん細胞が残っても、移植されたリンパ球に攻撃され死滅することが近年分かってきた。この働きに期待し抗がん剤と放射線の量を減らしたのがミニ移植。
同病院は二〇〇〇年から行い、昨年は移植の七割近い十八件を占めた。五十〜七十代が主な対象で、これまでに移植を受けた最高齢は七十二歳。「治療成績は通常の移植と大きく変わらない」と上田主任部長。ただ、長期的データが少なく、研究を重ねる必要がある。
「吐き気など抗がん剤の副作用はなかった」。骨髄異形成症候群の麻田昌孝さん(66)=高梁市成羽町吹屋=は二〇〇三年秋、五歳上の姉に骨髄液を提供してもらいミニ移植を受けた。
しかし、つらい闘病はここから。ほぼ一カ月後、終日続く激しい下痢と四〇度を超す発熱に襲われた。移植されたリンパ球が患者の消化器などを異物として攻撃するGVHD(移植片対宿主病)。死に至る危険もある。免疫抑制剤を増量、何とか二、三日で治まった。
約一カ月半後に退院したものの、その後もGVHDの間質性肺炎や感染症で一年半で六回の入退院を繰り返した。昨春以降は体調が安定し自宅で療養、やっと「命拾いした」と実感している。
「移植の成否を分けるのはGVHDと感染症への対応」と上田主任部長。薬で免疫を抑制するとGVHDは治まるが、逆に感染症の危険性は高まる。「加減が難しい。治療経験に基づく『引き出し』の多さが物を言う」
同病院は血液がん治療で中四国トップクラスの症例数を誇る。昨年、血液内科を受診した新患は悪性リンパ腫百六十九人、白血病六十五人、骨髄異形成症候群四十七人など計三百二十人に上った。昨秋に病棟を改装。無菌室を二床から三床へ、準無菌室を八床から四十三床へ増やし、移植に対応する体制を充実させた。小児科にも年十人近い新患がある。
移植後の五年生存率は約50%とまだ厳しい。上田主任部長は「血液がん治療は多くの診療科がかかわり、看護や薬剤部門も含め病院の総合力が問われる。各科の垣根の低さを生かし一人でも多くの患者を救いたい」と語っている。(中浜隆宏)
内田璞(すなお)院長に聞く 人材育て高度先進性維持
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| 高度先進医療を推進する内田院長 |
―倉敷を中心に岡山県西部の急性期基幹病院を標榜(ひょうぼう)している。
院是に「高度先進医療」があり、心筋梗塞(こうそく)、脳動脈瘤(りゅう)破裂などの重度の救急・急性疾患を対象に重点的・高密度な医療を提供しています。
―昨年の実績は。
たとえば救急医療センターでは年間救急患者総数六万六千八十一人で、救急入院六千九百五十四人、血管造影六百十六人、緊急手術二百九十二人、緊急内視鏡三百三人などが含まれます。総合病院の機能を維持しながら専門領域において先進的医療を行うと同時に、市民病院的役割を果たすためにインフルエンザ、慢性疾患(慢性腎炎、肝炎、糖尿病など)の診療も分担しなければなりません。
―そういう病院において、がん治療の位置付けは。
全入院患者に占める悪性腫瘍(しゅよう)の比率は19%前後で重要な診療対象です。地域がん診療拠点病院として消化器外科、消化器内科、乳腺外科、呼吸器外科、呼吸器内科、泌尿器科、耳鼻咽喉(いんこう)科・頭頸部外科、産婦人科、血液内科、放射線科がそれぞれの分野で診療を分担、協力しています。保健管理センターの健診を通じPET/CTなどを駆使して早期発見、早期治療によるがん死亡率低下に努めています。
―今後、どう展開する考えか。
手術重点から、化学療法プラス放射線療法の併用による治癒率の向上、臓器単位の病棟の編成、たとえば脳神経外科と神経内科で脳卒中センターにするセンター化により効率的医療を図りたい。
―何を充実したいか。
手術室、通院治療室の運営強化、がん専門の医師、看護師の育成、緩和ケアの充実などを目指します。
―治療実績を見ると大学病院に匹敵する面もあり、専門高度な医療をどうやって維持するのか。
人材育成が大事です。シニアレジデント採用による専門医の院内育成、認定看護師の育成、教育制度の充実、患者さんが安心して治療が受けられる安全風土の醸成、設備投資、救急体制の整備、病診連携の強化(連携パスなど)により高度医療の維持を図りたい。
(阪本文雄) |