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| 腹腔鏡手術をする安藤医師 |
倉敷成人病センター(倉敷市白楽町)二階の手術室で、腹腔鏡(ふっくうきょう)による卵巣がん手術が始まった。
患者は五十代の女性。進行がんで、子宮や直腸の周辺、骨盤の腹膜、横隔膜など広範囲に斑点のような白い腫瘍(しゅよう)が広がっていた。
執刀するのは、安藤正明産婦人科部長。子宮・卵巣がんの腹腔鏡手術を確立した国内第一人者といわれている。
婦人科での腹腔鏡手術は一九九〇年代に普及した。開腹せず、低侵襲に子宮や卵巣を摘出したり、子宮を残して筋腫だけを取り除くこともできる。小さい傷跡で体への負担は軽く、手術翌日の食事や歩行も可能になった。美容上の不安も解消し女性にとってメリットは大きい。
しかし、悪性のがんとなると状況は大きく変わる。広範囲に広がったり複雑に入り組んだ腫瘍を腹腔鏡手術で取り除くのは困難だ。立体感のない二次元モニターを見て行うため遠近感がつかみにくい。狭い腹腔内で鉗子(かんし)など器具の動きの制約を伴う。高度な技術が必要とされ、開腹が常識だが、安藤はそれを覆したのである。
開腹すれば体力回復に時間がかかり、リンパ節に転移があっても抗がん剤や放射線治療などに速やかに移れない課題があった。安藤は「開腹後二週間もぐったりしている患者をみてダメージを軽減し、救いたいと思った。技術的にできないのならトレーニングを積めばいいと単純に発想した」と言う。
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安藤正明氏 |
腹腔鏡手術は、腹部に〇・五〜一センチほどの穴を三、四カ所開け、穴から入れた細長いカメラ(腹腔鏡)でモニターに映して行う。体内に細長い鉗子やはさみなどを入れて操作する。
安藤は画面を見ながら器具を自由自在に操り、病変部を目指す。大動脈に張り付いたリンパ節を電気メスや特殊な血管凝固装置で切除。横隔膜の表面を薄くはぐ。血管、臓器を傷つけず切除縫合を繰り返し、胸付近から足の付け根まで肉眼で確認した腫瘍はすべて取り除かれた。開腹すれば数十センチにもなっただろう。手術は約六時間半で終了。直後に抗がん剤を腹腔内に注入した。
安藤の行った腹腔鏡手術は、子宮・卵巣がんは三百例に達し、子宮筋腫や卵巣嚢(のう)腫など良性疾患を含め三千五百例と国内トップ。浸潤子宮がんの子宮温存手術で、国内初の妊娠例がある。子宮内膜症の病変が尿管や直腸まで広がった深部内膜症に対する広範切除・再建手術、また子宮が下がる子宮脱は国内唯一。国際的な学会で五年連続学会賞を受賞するなど海外の評価も高い。
婦人科がんの腹腔鏡手術は、一般的な治療となっておらず保険もきかない。安藤は「満足できる医療を納得して受けてほしい」と、リスクの可能性も含め徹底した情報開示に努め、説明と同意に時間をかける。
「困難な手術だけに達成感も大きい。限界を決めないことで可能性は広がる。女性のニーズにこたえたい」
自治医科大医学部卒業後、湯原温泉病院で総合医としてへき地医療に携わった。八六年から倉敷成人病センター。宝塚市立病院の伊熊健一郎医師の指導を受け、九七年腹腔鏡手術を導入した。慶応大産婦人科客員助教授、京都大医学部と大阪大医学部の非常勤講師のほか、中国・北京首都大客員教授も兼ねる。毎年十回程度は海外に出て講演や学会発表をしている。五十一歳。
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