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| スタッフと打ち合わせをする中島医師 |
「言う通りにしないと怒って物を投げる。常に付きまとって離れないんです」―。旭川荘療育センター児童院(岡山市祇園地先)の精神科診察室。中島洋子院長代理のもとを五歳男児を連れた母親が訪れ受診した。
男児は母親の陰に隠れ、話しかけに応じず、目も合わせない。中島は、精神疾患の国際的な基準(DSM)などに基づき、行動の特徴、成育歴などを総合的に調べたうえで、アスペルガー障害と診断した。自閉症と同じ「広汎性発達障害」の一種である。
社会的対人関係、コミュニケーション、社会的想像力の障害、こだわりといった自閉症の症状のうち、幼児期に言葉の遅れがない場合がアスペルガー障害に当たり、感覚や記憶にも特異さを示す。生まれつきの脳機能障害が背景にあるという。
一方で、知的発達の経過は普通かそれ以上。この男児も、脳波に異常はなく知能指数(IQ)も高かった。幼稚園から「良い子ですよ」と報告を受け、単身赴任の夫は「寂しいのでは」と気にも留めなかった。母親は「自分の子育てがまずいのか」と責めていた。
広汎性発達障害の発症は千人に十人程度、アスペルガー障害は千人中三〜四人と言われるが、幼児期には、ともに「個人差」として、専門機関でも見過ごされてしまいがちだ。確かな診断を下した中島の眼力は、千例を超す、さまざまな年齢の広汎性発達障害の臨床経験に裏打ちされている。
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中島洋子氏 |
男児に関して、中島は心理の専門スタッフらとともに行動の質や発達の評価を行い、個別プログラムを作成した。社会性の発達を促すリハビリテーションを行うためだ。コミュニケーションや社会的状況を把握する力を養い、集団適応のための基礎的な力を積み重ねていく。情緒の乱れや強迫性、衝動性などに精神科薬物療法を加える場合もあるという。
同時に、母親にも障害の特性や発達パターン、将来起こり得るリスクを知ってもらう。目の前の対応だけでなく、その子に即した発達を実現できる環境を整えるためだ。将来を見据え、自立的な行動をはぐくむ視点を大切にしているのである。
初診から一年。男児はかなり落ち着いてきた。「放置すれば、いずれ不登校や引きこもりなど適応障害が表面化し、人間関係もこじれただろう」と中島は言う。
児童精神科の対象となる障害には、広汎性発達障害のほか、注意欠陥多動性障害(ADHD)が多い。虐待された子どもの反応性愛着障害なども増えている。約三十年のキャリアを持つ中島は「早期からの適切な発達支援が大切。医療機関と学校、関係機関が連携した地域での組織的支援が欠かせない」と強調する。
岡山大医学部卒。母子関係に関心を持ち、同精神科児童外来で古元順子医師に学んだ。その後、岡山県精神保健福祉センターで、発達障害の子どもたちのためのデイケアに取り組んだ。
現在は、おかやま自閉症・発達障害支援センターと地域療育センターの所長を兼ね地域の相談体制づくりにも尽力する。
児童院では四人の児童精神科医とともに一日百七十人の外来を受け、保健所や児童相談所の嘱託医も務める。「子どもの発達を扱う問題は長期経過に基づく判断が重要」。一人の患者と十年、二十年、じっくり向き合う。五十九歳。
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