

「社会福祉法人岡山博愛会100年史」(一九九一年発行)は明治二十四(一八九一)年、アメリカの女性宣教師アリス・ぺテー・アダムスが岡山市に着任、子どもたちを自宅に招き、活動を始めた明治から大正、昭和、平成の百年の歩みを書いている。差別と貧困、そこから生じる「仕事がない」「学校へ行けない」「病気になっても治療が受けられない」という問題に対し、キリスト教の愛の精神で多くの人たちを救済する苦闘の歴史が刻まれている。
巻末の旧職員名簿はそこで働いた人々の名が連なっている。初代小学校長小野田元で始まり、医師では岡山医学専門学校の菅之芳校長、大藤昇、掛谷令三、赤沢乾一らとともに三木行治の名があった。
昭和十四(一九三九)年二月四日、三木医師は岡山市の岡山博愛会病院に開設された夜間診療内科で診察していた。丸い顔にちょびひげ、小太りの体を白衣に包み、聴診器を患者の胸にあてていた。結核が多く、必ずチェックした。寒風が窓に吹きつける待合室では仕事を終えた人々が順番を待っていた。
この病院は明治三十八(一九〇五)年、施療所として発足、診察料、薬代、入院料などを徴収していなかった。しかし、この日、夜間診療の開始から、一律五銭の薬代だけ徴収することにした。患者の人権を尊重し、一方では利用する人たちの懐具合を考えて、薬代は一般の診療所の五分の一にとどめた。
夜間診療も、五銭の薬代も、すべては岡山簡易保険健康相談所の内科医三木の提案だった。昼間、相談所の診察を終え、夜間診療に駆けつけたのだった。この時、三木は三十六歳。この十日後には上京し保険院簡易保険局に勤務することになっていた。一線医師の最後の仕事として夜間診療で病人を救う施療の医師として奉仕したのだった。
若くして両親と死別した中で少年期を過ごし、人生の無情を知る。まきを売って歩き、新聞配達する少年に励ましの声を掛ける人々があり、この世の有情を知る。大正十四(一九二五)年、六高から岡山医大へ入学した。倉田百三の「出家とその弟子」漱石の「行人」「門」そしてトルストイなどを読みふけった。卒業式では総代として答辞を読んだ。 刎頚 ( ふんけい ) の友となった蜂谷道彦(後に広島逓信病院長)とともに第一内科へ入局。一年間研修後、徳島県の小松島診療所を経て、岡山郵便局の東にあった健康相談所に勤務。二十七歳から三十六歳までの医師としての活動拠点となる。
午前九時から患者を診察し多い日は昼食が午後三時になった。無医村、農村へ巡回診療にも出かけた。お金のない患者には自腹を切って薬を渡すこともあった。診察を終えると母校の細菌学教室へ通い、牛の寄生虫の発育過程を明らかにする博士論文の研究を深夜までし「吸虫ミラチジウムの発育」で医学博士になった。岡山県北の作州熱など風土病の現地調査にも取り組んだ。
この間には九大政治学科に入り、卒業した。医師として最初の患者が結核だった。不治の病と恐れられ、治療法は特になかった。安静にし、栄養を取り、きれいな空気を吸うよう指示するだけ。結核患者が最も多く、医師の立場で行政に参加し人々の暮らしをよくし病人を救いたいと考えるようになっていた。(敬称略)
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◇参考文献はまとめて掲示します。
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結核 岡山医大 岡山博愛会 岡山簡易保険健康相談所 保険院簡易保険局 三木行治 蜂谷道彦 吸虫ミラチジウム 作州熱 |

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