

三木行治は昭和十四(一九三九)年二月、岡山から上京、岡山簡易保険健康相談所内科医から保険院簡易保険局監理課勤務になった。三十六歳。
行政官になった三木の最初の仕事は九年間働いていた健康相談所の拡充だった。医師、看護師を確保し全国に配置、五年で百三十施設を三百に増やした。厚生省健民課長になり、次の仕事は保健所への統合。簡易保険、小児結核などの健康相談施設を保健所に一本化し結核予防のための保健所網づくりを推進、四百だった保健所は八百に倍増した。手腕が認められ、四十三歳で厚生省公衆保健局長、四十五歳で公衆衛生局長に就任した。結核患者を救うために結核予防法を立案した。
厚生省で三木に人望が集まり、将来が期待される矢先、岡山から県知事選への出馬要請があった。使者は岡山医大の盟友川崎祐宣川崎病院長、山崎始男岡山県教育委員らだった。厚生省は強く反対、川崎らは涙を流して帰った。「三木立つべし」の声は消えず、岡山側は再度上京、粘りが功を奏し三木は告示二カ月前に出馬を決断し帰郷した。
母校岡山医大の医師が多い県医師会、県教組などが支持した。巡回診療した各地の患者らが自転車に乗ってメガホンで三木の名を連呼、手弁当で選挙運動に参加した。投票日の三日前、三木が尊敬するキリスト教社会事業家賀川豊彦が来岡した。岡山博愛会創立六十周年伝道講演会が岡山市公会堂で開かれ、賀川が講演した。閉会後、賀川の提案で三木激励の選挙演説会に切り替えた。賀川は戦後の社会党結党に参加、片山哲内閣で厚生省嘱託になり三木と知り合う。差別と戦い、貧しい人に手を差し伸べた賀川の人生と人柄にひかれ私淑していた。何よりの援軍だった。
昭和二十六(一九五一)年、現職を破って、知事に初当選。四十八歳の三木はふるさとで県民の医療、福祉優先の行政に着手した。愛育委員五千五百人を委嘱、高かった赤ちゃんの死亡率を低くする体制を整えた。県地方事務所に福祉課、各市に福祉事務所を置き、福祉の拠点を開設。病院の日を制定した。
民間の医療、福祉にも積極的に協力した。津山市に額田須賀夫、宮本祥郎、牧山堅一医師が津山中央病院を開設する時も県北の拠点病院をと支援を惜しまなかった。
川崎祐宣川崎病院長が計画した社会福祉法人旭川荘の開設に中心的役割を発揮したのは三木だった。施設建設費へのお年玉年賀はがき益金配分、県立民営移管、すべてのポイントで動いたのは三木。賀川の愛農運動の考えを受け入れ、農場、果樹園、牧場をつくろうと計画段階から県の技師を派遣した。旭川荘設立趣意書を書いたのは上京前、夜間診療で親しかった、岡山博愛会の更井良夫会長。「計画を見ると、子どもたちのために良い施設、それも人間味のある施設をつくろうという三木さんの思いが伝わってくる」と江草安彦旭川荘名誉理事長は話す。
昭和三十九(一九六四)年八月、企業誘致を進め、水島工業地帯を築き、農業県脱皮を図ったことが認められ、マグサイサイ賞に選ばれた。授賞式で「私は医師であり、生涯を生命の使徒として送ってきた人間であります」とあいさつした。
九月二十一日、突然の心筋 梗塞 ( こうそく ) で死去した。六十一歳。山陽新聞は一面に遺稿「フィリピンの空に祈る」を掲載した。「生命は一つである。だから生命に奉仕することが良く生きることだ。青年時代から現在まで私は同じ道を歩き続けてきたようである」
円満福徳、清貧の人だった。病人を医し、世を治する生涯だった。(敬称略)
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呼吸器 |
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