




大動脈疾患のうち、大動脈解離と大動脈 瘤 ( りゅう ) を取り上げる。国立病院機構岡山医療センター(岡山市北区田益)心臓血管外科の岡田正比呂医長に治療法や術後の留意点について聞いた。
―血管の壁が裂ける大動脈解離は急に発症するのですね。
多くの場合、前触れなく突然起こります。劇的な非常に怖い病気です。ガーンと背中や頭を殴られたような激痛があったり、時に失神発作で倒れてしまう状態で発症する。血圧が急激に上がった時、例えば夫婦げんかをしていて急に奥さんが倒れてしまったという事例もあります。
患者さんの多くは救急車で搬送されてきますが、脳卒中でも、激しい心筋 梗塞 ( こうそく ) などでも倒れることがあり、かかりつけ医の段階では、そうした疾患との鑑別、見極めが非常に難しい。
―搬送後すぐ手術ですか。
大動脈解離の病型分類に「スタンフォード分類」というのがあって、A型( 上行 ( じょうこう ) の部位に解離があるもの)なら、まず緊急手術をしなければなりません。A型解離を発症すると、通常の内科的治療だけ受けて手術をしなければ、1カ月以内の死亡率が8割、9割といわれています。
B型(上行に解離がなく、解離が 弓部 ( きゅうぶ ) や 下行 ( かこう ) 、腹部に及ぶもの)は基本的に内科的な治療(降圧剤治療など)をします。しかし 虚血 ( きょけつ ) と言って、血管が裂けたために腎臓や肝臓、腸に血液が行かなくなった状態や、裂けた所から血液が染み出して破裂の兆候がある場合は、B型でも緊急手術です。
解離している所を人工血管に置き換える手術(人工血管置換術)が今の主流です。解離の範囲や程度によって違いますが、5、6時間で終わることもあれば、12時間ぐらいかかる時もあります。
大動脈の上行は心臓に近い部位なので手術中いったん心臓を止めなければならない。人工心肺や、脳の血流を保つ補助手段を使い、生命を維持させます。解離も胸部大動脈瘤もいっしょですが、心臓手術に熟練しているチームでなければ難しい手術です。岡山医療センターでは、解離の緊急手術が年に10件から15件あります。
―大動脈瘤で、手術となる瘤の大きさはどれぐらいですか。
胸部の大動脈瘤は直径6センチ、腹部は5センチを超すと破裂の危険性が出てくるといわれ、手術となります。ただし75歳とか80歳の高齢の方は元気なうちにということで、胸部で直径5センチ、腹部で4センチを超すと手術をすることもあります。
大動脈瘤の手術は、人工血管置換術のほか、ステントグラフトを使う方法(カテーテルで、ばね付きの人工血管を入れる)があります。岡山医療センターでは、胸部の手術が年20件程度、腹部は年に30件から40件です。ステントグラフトは胸部、腹部それぞれ10件程度です。
―置換術とステントには長所短所がありますか。
侵襲(体への負担)が少ないという点ではステントが優れています。置換術は開胸、開腹して人工血管を入れなければなりません。ステントは脚の付け根部分を小さく切開する程度で済みます。
しかしステントは比較的真っすぐな形なので、胸部の下行にはよく使われますが、血管が曲がっている部分などには使いにくい。また、新しい治療法ですから長期予後(今後の病状の医学的な見通し)が大丈夫かどうか、気を付けて診ていかなければなりません。
置換術は侵襲こそ大きいけれど、それを乗り切った患者さんは憂うことなく一生過ごす人がほとんどです。人工血管は20年、30年は十分持つといわれ、長期予後も安定しています。
患者さんには置換術とステントの一長一短について必ず説明をしています。
―術後、気を付けることは。
血管の病気を患った人には、高血圧、糖尿病、高脂血症といった基礎疾患があり、そうした疾患のコントロールを継続して行っていただきたい。手術で基礎疾患も治ったと錯覚する方がおられますから。糖尿病なのに「これで酒が飲める」といったふうに。規則正しい生活で体を大事にすることが肝要です。
―ご自身はオーストラリアの病院に留学されています。特に印象深かったことは。
日本人は、手術で体にメスが入ると「傷がついた」と悲観的になる人が多い。向こうでは人工血管の手術後、退院する際に「悪い所を新しいものに取り替え、自分はよみがえった」と前向きな発想の人が多く、国民性の違いに驚きました。
心臓や大動脈の機能を治す手術を受けた人は、術前より必ずよくなっているんです。退院して自信を持って、また社会に貢献していただきたいです。
病のあらまし
「大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2006年改訂版)」によると、日本での発症数は、大動脈解離が推定で年間9000人、大動脈瘤が同1万6000人(ともに02年)となっている。
大動脈は、心臓の左心室から勢いよく送り出された血液がまず通る、体の中で最も太い血管だ。心臓から出て頭の方に向かい(上行)、その後、左後ろ方向に弓のようにカーブしながら(弓部)、頭と腕に血液を送るための枝分かれの動脈を出す。さらに向きを下に変え(下行)、背骨のすぐ前を通って腹部、脚の方へ向かう。
大動脈の直径は胸部で3センチ、腹部が2センチ。血管の壁は内側から内膜、中膜、外膜の、弾力のある3層構造になっている。この内膜に亀裂が入り、本来1枚であるべき壁が内側と外側の2枚にはがれてしまう疾患が、大動脈解離だ。解離を起こすと、外側の膜が圧力に耐えられず、破裂し即死に至ることがある。
大動脈瘤は、動脈硬化などで弱くなった大動脈に、こぶのような膨らみができる疾患。胸部の上行、弓部、下行、腹部といろいろな場所にでき、こぶの形で 紡錘 ( ぼうすい ) 状、 嚢 ( のう ) 状などに分類される。破裂すると周囲に血液が噴き出て、胸部大動脈瘤では肺や心臓を押しつぶしてしまう。
ステントグラフトは1990年代に開発された新しい治療法だ。 鼠径 ( そけい ) 部(脚の付け根部分)の動脈からカテーテルを大動脈まで進め、圧縮・収納していたばね付きの人工血管を入れ込む。ばねの広がる力で瘤の前後の大動脈壁に固定される。
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循環器 心臓血管外科 県南東部 |
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大動脈解離 大動脈瘤 国立病院機構岡山医療センター 岡田正比呂 大動脈疾患 人工血管置換術 ステントグラフト 基礎疾患 生活コントロール ガイドライン |

第23回 乳がん おおもと病院 山本泰久理事長・名誉院長
第22回 悪性リンパ腫 岡山労災病院 矢野朋文・第2内科部長
第21回 緩和ケア 岡山済生会総合病院 石原辰彦主任医長
第20回 乳がん 川崎医科大付属病院乳腺甲状腺外科・園尾博司部長
第19回 うつ病 万成病院 小林建太郎理事長・院長
第18回 統合失調症 慈圭病院 武田俊彦副院長
第17回 重症心身障害児・者の医療 旭川荘療育センター児童院 片山雅博院長代理
第16回 尿路結石 岡山中央病院 入江伸医師
第15回 感染制御 光生病院 吉本静雄副院長
第14回 手の外科 笠岡第一病院 橋詰博行院長
第13回 小児整形外科の三大疾患 旭川荘療育センター療育園 小田浤院長
第12回 大腸がん おおもと病院 磯崎博司院長
第11回 膀胱がん 松田病院 森岡政明診療部長
第10回 皮膚がん 川崎病院皮膚科 荒川謙三部長(院長補佐)
第9回 未破裂脳動脈瘤 岡山旭東病院 吉岡純二診療部長
第8回 心筋梗塞 心臓病センター榊原病院 山本桂三副院長
第7回 人工関節(MIS) 岡山労災病院人工関節センター 難波良文センター長 
第6回 食道がん 岡山大病院消化管外科 猶本良夫科長
第5回 肺がん 岡山赤十字病院 渡辺洋一副院長
第4回 大動脈解離、大動脈瘤 国立病院機構岡山医療センター心臓血管外科 岡田正比呂医長
第3回 胃がん 倉敷中央病院 小笠原敬三院長
第2回 肝がん(外科手術) 岡山済生会総合病院 三村哲重副院長
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